日本RF手術研究会ジャーナル Vol.13 No.1
妊娠を考慮した低侵襲婦人科腹腔鏡手術にはサージマックスが有用である
辻 芳之(神戸アドベンチスト病院 産婦人科)
辻 芳之(神戸アドベンチスト病院 産婦人科)
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妊娠を考慮した低侵襲婦人科腹腔鏡手術にはサージマックスが有用である
辻 芳之(神戸アドベンチスト病院 産婦人科)はじめに
現在婦人科の腹腔鏡手術では各種のパワーソースが使われていますが、狭い視野と微小な範囲で操作を行うため、思いもかけない副電流や予想外に深い熱損傷により腹腔内にいろいろな障害が起こることがあります。私達は熱損傷が極めて少ないことに注目し、約15年前から腹腔鏡手術にはサージマックス(現:サージトロンS5)をファーストチョイスとして用いていますが、現在日本国内で同様の方法が普及していないのが非常に不思議です。
婦人科の内視鏡手術の特殊性として、基本的には良性疾患が大半であること、30代を中心とした若年女性患者が非常に多いこと、妊孕性を維持するために卵巣、卵管の熱損傷や癒着を最小限とする必要があること、肉眼的手術の達成度と妊孕性向上とは必ずしも一致しないことが挙げられます。
私達がサージマックスを婦人科腹腔鏡手術に用いる理由は、組織熱損傷が少ないこと、特に微小な手術が有効であるということ、また廉価であることです。
私達は子宮頸部高度異形成に対する円錐切除をほとんどサージマックスで行っているのですが、組織図をご覧いただいた通り、その組織内の熱損傷は最大でも0.2mmなのです。
これは通常の電気メスでは1mmにも達するのに比べて極めて少ないと言えますし、このことは、腹腔内での卵管や卵巣に対して非常に有効だと思います。
サージマックス熱損傷深度測定
子宮頸部高度異形成症例
サージマックスによる円錐切除術断端部熱変性部分深度は0.2mm
組織変性少なく病理組織診断に影響を与えない
子宮頸部高度異形成症例
サージマックスによる円錐切除術断端部熱変性部分深度は0.2mm
組織変性少なく病理組織診断に影響を与えない
多嚢胞性卵巣症候群について
腹腔鏡手術の症例として、多嚢胞性卵巣症候群というのがあります。多嚢胞性卵巣症候群は卵巣にたくさんの嚢胞ができてしまうことによって、排卵ができなくなり、ホルモン異常が出て来るのですが、この卵巣に小さな孔を開けてあげると非常にうまく排卵するようになります。そしてかなりの確率で妊娠できるようになるのです。ただ、この方法は一時的にしか効きません。また、一回卵巣あたり20穿刺ほども行う必要があり、一般的な電気メスでは卵巣に対して熱損傷が起こってしまい、かえって卵巣の機能を悪くしてしまったという批判も受けています。
私達の施設は年間体外受精が300例程度の非常に大きな不妊センターを持っていて、多嚢胞性卵巣症候群の方も多いのですが、熱損傷が非常に少ないサージマックスと専用の針状電極を使用することによって、抵抗なく穿刺できて出血もせず、今まで1例も卵巣機能障害を出したことはありません。
その後のホルモン測定でも、排卵についても全く障害は起こらないし、また非常に長期間にわたって妊娠されています。
多嚢胞性卵巣症候群 Laparoscopic assisted ovarian drilling
子宮内膜症について
次に、不妊症の領域で非常に多いのはやはり子宮内膜症です。子宮内膜症のために痛みや不妊になる方が最近殊に多くなってきているのですが、私達は体外受精の成功率も高い施設であり、半数は妊娠できているのですが、妊娠できなかった患者の中には子宮内膜症の方が非常に多いです。受精はできるものの子宮内膜症に起因する様々な炎症性物質が着床を阻害させるという報告も出ています。
病院によっては子宮内膜症の病巣を取り除いてしまうという方法も考えられるのですが、私達は妊孕性の維持のため、子宮内膜症病巣の焼灼にとどめる場合が多く、まず病巣の勢いを抑えて、そして炎症状態を鎮めることにより、非常に高い確率で体外受精が成功しています。
このことは、サージマックスの使用により徹底的に熱障害が少ない状態で、表面の病巣部分のみを処置できるからだと思います。
次の映像のように子宮内膜症の病巣をボール電極で凝固するのですが、このような出血の多い部分でも非常にマイルドに表面の血管だけを凝固させることが可能ですので、処置に対する損傷がありません。
また、こちらは仙骨子宮靭帯付近にある子宮内膜症病巣ですが、非常に危ない場所で、普通のハガネデバイスを使うと副電流があり、腸管や尿管に対する損傷が非常に怖いのですが、サージマックスに関してはそのような心配がなく、何の障害もありませんし、癒着もおこりません。
そのため我々は長い間サージマックスを使って不妊治療を続けています。
サージマックス球状電極による子宮内膜症病巣焼却術
子宮内膜病巣は組織内深度が浅くサージマックス用の球状電極での子宮内膜病巣焼却がもっとも正常組織に対する障害が少なく有効である。
子宮外妊娠について
次も最近多い症例である子宮外妊娠についてお話します。子宮外妊娠の腹腔鏡手術は保険点数も高く、リガシュアなどで卵管を切除するのは非常に簡単で、20~30分で終了する手術なのですが、我々の施設では不妊症、また体外受精関係の子宮外妊娠の患者が多いので、そのような方に対しては卵管線状切開術で子宮外妊娠の胎嚢を卵管から除去し、卵管をそのまま保存して妊娠能を保持する方法も選択肢に持っています。
ただ、この卵管を保存する子宮外妊娠の手術は、その後いろいろな問題が起こりやすい。
癒着を起こしたり、あるいは卵管を残しても機能不全になったり、手術により炎症を起こしてしまって、逆に炎症性物質によって妊娠しなくなる。
ただ私達の場合は、感染が進んでいない限り卵管を残す方法を取っています。
それが次の映像です。卵管は非常に出血が多いところなので、きれいに洗浄してから手術を開始します。血管収縮剤を打ち、針状電極にて卵管に切開を入れていきます。この時に注目してほしいのが組織の収縮や血管の様子です。サージマックスは使い慣れが必要ではありますが、全く卵管が収縮せず、非常に薄くミリ単位で切れていき、出血もしません。卵管を切り開くと胎嚢が出て来るので、切開、洗浄を繰り返し、子宮外妊娠の部分をすっと抜いて来ます。このように卵管上皮が綺麗に残っている状態であれば縫合する必要はなく、綺麗な卵管に戻ります。
子宮外妊娠
サージマックス針状電極による卵管線状切開
まとめ
サージマックスは組織熱損傷が他の腹腔鏡用パワーデバイスに比べてマイルドでありながら十分な止血効果があり、微細な腹腔鏡手術に適していると思います。特に妊娠能力の保存に留意しなければならない若年婦人を対象とした卵巣や卵管の腹腔鏡手術のパワーソースとして非常に有用です。その他、コンジローマや外陰部にできるアテロームに対しても全くひきつれなく切除が可能で、術後部位も非常に綺麗な状態になりますのでサージマックスは婦人科症例にて幅広く活用することが可能だと思います。
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辻 芳之(神戸アドベンチスト病院 産婦人科)
※元資料に基づき、敬称略にて表示しています。
辻 芳之(神戸アドベンチスト病院 産婦人科)
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