RFナイフを使用した獣医外科基本テクニック
RFナイフを使用した獣医外科基本テクニック
監修:生川 幹洋先生(三重動物医療センター/名古屋どうぶつ病院 総院長)
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CONTENTS
・肛門周囲腺腫・マイボーム腺腫
・猫の耳介の肥満細胞腫
・犬の避妊手術
・口腔内腫瘍(線維性エプリス)
・鼻腔形成術
・軟口蓋過長症
・犬の皮膚の肥満細胞腫
・乳腺腫瘍
「RFナイフを使用した獣医科基本テクニック」を監修して
医療機器はそれぞれのメリットデメリットがあるので、そこをよく理解して使うのが大切です。私も10数年前からRFナイフを使用しておりますが、多くの腫瘍外科手術の時にはRFナイフを中心に使っています。電気メスでは皮膚を切ったときは表層の炭化した皮膚を切らないと形成できないが、エルマンはその必要がありません。電気メスの炭化をそのままにしておくと瘢痕のようになり、それが後に合併症になる可能性もあります。SSI(手術部位感染)の可能性があるので皮膚はきれいに切る方が良いし、きれいに形成できることでイメージ通りの手術を行うことができます。
SSI以外にも皮膚自体が瘢痕してちょっとした肉芽っぽくなってくることがあります。動物なのでそういった美容的なものは関係ないという意見もありますが、傷口をきれいにすることで飼い主さんが見えるのはそこしかないので、手術の評価、そして病院の評価につながります。私は腫瘍外科医で腫瘍外科の分野でいろんな手術を数多く執刀してきましたが、腫瘍側からの出血が嫌で、それは細胞が一個でも混じっているかもしれないからです。出血は極力避けたいので金属製のメスは止め始めています。気持ちとしては一滴でも出血させたくなく、無血で終わりたいというそういう意味ではRFナイフは必要と考えています。さらにRFの特性以外にも、RFナイフに接続して使用する有用なデバイスもありますので、その使用例を中心にご紹介致します。
本書はRFナイフを使用するにあたり、診療の一助となるテキストとしてご利用いただけると幸いです。
生川 幹洋先生
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三重県動物医療センター 名古屋どうぶつ病院 総院長 【出身大学】 日本大学生物資源科学部獣医学科卒業 【出身地】 三重県四日市市 【資格】 獣医師(外科 腫瘍) 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種 |
肛門周囲腺腫
症例解説と治療の流れ
肛門会陰部の切開では、多くの症例でエルマンを使用する。身体の先端である、目、耳、口、四肢末端等は血管が非常に豊富であり、このような出血が予測される部位ではメスを使用せずにエルマンで切開するようにしている。症例のような肛門周囲腺腫であればまず肛門腺が損傷しないように金属のゾンデを入れてマーキングする。エルマンとワンセットで用意するのは血液と煙を吸うためのフレージャー型のサクションを用意する。エルマンの使用法だけでなく独自の腫瘍外科のコツになるが、腫瘍は指の中に入れて触診上でマージンを確保し、さらに肛門腫瘍の場合はできるだけ牽引する。牽引することで中にある肛門腺と距離が保てるだけでなく外肛門括約筋を温存できるからである。牽引し組織を延ばすことで正常組織との距離を作り、エルマンで皮膚を切り進める。マージンは最低でも約5mmとしている。奥の肛門周囲腺の所は血管が多いので、電気メスを使い、表皮、真皮、肛門周囲の表層ぐらいまではRFナイフを使用する。当院では今回の出力はBLEND:50で使用している。RFナイフを使うことで皮膚切開創に熱損傷をあまり受けていないため、断端の形成をすることなく縫合できるのがエルマンの長所である。
肛門周囲の外科は他の手術に比べて合併症率が高いため、最近では内半縫合をできるだけ細かくし、表皮を縫わなくてもいいぐらいにきれいにすることで合併症率を下げている。最後に綺麗に創面を合わせるが段差を付けないようにすることが大事である。縫合糸はナイロンを使うようにしている。手術直後は3Mから出ているスプレー式の絆創膏をかけて出来るだけ合併症になる可能性は低くしている。
当院でも過去に数例、綺麗にオペをしたにも関わらず、お尻を擦ることや局所感染などで、術創離開の合併症が起こったことがあり、術前からのインフォームドコンセントは重要であり、特に綺麗な手術をしたとしても術後の合併症の可能性はあるということを説明している。
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腫瘍を指の中に入れて触診上マージンを確保牽引しエルマンで皮膚・皮下組織まで切開
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パピヨン 11歳8ヶ月 ♂
使用電極:
針電極 A8D
シャフトの長さ:20mm
電極外径:0.2mm
出力モードと出力:BLEND:50
マイボーム腺腫
症例解説と治療の流れ
マイボーム腺腫では普通の電気メスは使わない。熱損傷が多く、切離した組織が収縮しそのままでは縫合が困難になるからである。当院ではマイナーサージェリーであっても拡大鏡を使用し、より丁寧で細かな手術を心がけている。創面を変化させないためにはRFナイフでもCUTモードを使う方が良い。今回の症例では腫瘍を一気に切除するのではなく、まず表を切って、裏返して切るように別々に切る方がマージンを確実に確保できる。
外貌に関係する部位では、最小マージンで確保したいため、組織を広げて切開する。良性腫瘍のマージンは1~2mmにしている。切り方は野球のホームベース型に切ると良いと言われており、腫瘍のところは少し膨らませて形成用にメス先を垂直にするときれいに切れ、瞼板のラインがきれいに出て、凹ませたり飛び出すこともなく整えることができる。この時の出力はCUTで35である。あまりに出力が高いとRFナイフでも熱変性が出るし、逆に低すぎるとメス先を動かしているのに切れないことがあるので、今回の症例では35が適正であった。デマル式挟眼器は出血を制御し、さらに組織を伸ばして挟むのでマージンを確認しやすい。術後には腫瘍からマージンまでの距離は必ず病理で見てもらうようにしているが、今回の症例でも底部までは約0.2mm、皮膚側が約0.5mmとなっており、自身の予測通りであった。
縫合は教科書通りである。先に眼瞼を綺麗に形成し、その後それ以外を縫合する。角膜側に糸がでないように細心の注意を払う。
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マイボーム腺腫が眼瞼裏にまでメラニン色素をもって増大
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裏の腫瘍のマージンを拡大鏡で視認しながらRFナイフのCUTモードで切開
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マージンクリア(マージンまでの距離:眼瞼結膜側および底部が約0.2cm、皮膚側が約0.5cm)
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M.ダックス 7歳10ヶ月 ♂
使用電極:
針電極 A8D
シャフトの長さ:20mm
電極外径:0.2mm
出力モードと出力:CUT:35
猫の耳介の肥満細胞腫
症例解説と治療の流れ
猫の肥満細胞腫は良性の場合もあるが、増大と内科治療に反応が悪いということから悪性の可能性もあり手術をした。マイナーサージェリーでも良性腫瘍でもマージンが小さいとそれに伴う再発のリスクがあり、マージンが小さいには小さくする技術が必要である。それにはしっかりと視認することが大事になる。当院ではZEISSのサージカルスコープを使用している。肥満細胞腫辺縁から1cmの所をマージンとした。RFナイフでなだらかにカットした。耳介は出血を考慮しBLEND50で切開した。耳の軟骨はメスでは切りにくいものであるが、RFナイフの切開特性として得意な箇所である。思い通りの形に一気に切ることができ、切開部分を形成することなく縫合できる。耳は表面の方が皮膚は厚く、耳介(内側)の方は皮膚が薄い。表面の厚い皮膚を内側に縫い付けるように運針すると良い。
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耳介に発生した肥満細胞腫
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良性腫瘍でもマイナーサージェリーでも視認することは大事!
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肥満細胞腫の辺縁から1cmマージンマーキングし皮膚・耳介軟骨を同時切除
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使用電極:
針電極 A8D
シャフトの長さ:20mm
電極外径:0.2mm
出力モードと出力:BLEND:50
犬の避妊手術
症例解説と治療の流れ
今回避妊手術におけるエルマンのシーリングデバイスの使用感を確認するためゴールデンレトリバーの避妊手術で使用した。基本的にリガシュア等の高周波のシーリング機器とイメージは変わらない。エルマンのシーリングで汎用機と最も違う点はシーリングの終了がオートではなく、マニュアルであるという点である。しかし、使用感ではこれがそれほど問題になることはなく、慣れてしまえば同じ感覚で出来ると思われた。それと使用していて感じたものに組織が厚いと時々通電しない時があるので、ずっと組織を挟みっぱなしではなく、クランプの開閉をゆっくりと繰り返しながら、組織の変性度合いを目視で確認しながら使用するのがこれを回避するコツであるように感じた。使用に慣れてしまえば大型犬の卵巣動静脈、子宮間膜でもほぼ問題なくシーリングできると思われる。小型犬・猫であれば一回のシールでも十分であるとも思われる。
しかし、安全のためにシール部分の幅が欲しいことも多く、その場合は一度のシールだけでなく、上下にずらして何度かシールして幅を増やすことで安全を担保できる。これはオートタイプのシーリング機も同様である。
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使用電極:
バイポーラクランプ SCBI-01
把持部の長径:16mm
短径:3mm
出力モードと出力:BIPOLAR:30
口腔内腫瘍(線維性エプリス)
症例解説と治療の流れ
口腔内腫瘍は悪性が多いがエプリスなどの良性病変も良く遭遇する。これらを生検目的の手術などに使用するためにRFナイフは非常に有用である。当院では表層部の手術でRFナイフを針電極を中心に使っているが、これらの口腔内の手術や生検にも針電極が有効である。針電極だと結構薄いところまで入りやすく焦げることもなくきれいに切除できる。生検にも有用であり、切除のみで縫合せずに終える場合もある。この場合ははじめにRFナイフでギリギリまで切除し、底部の組織が残っているときは電気メスで焼いて終えることが多い。
このように口腔内疾患の最初の切開は切開の容易さや切開線の自由度と出血のコントロールのためにRFナイフの使用が断然多い。また粘膜を切っても組織損傷が少なくそのまま縫合できるメリットがあるのも口腔内疾患では非常に有用である。
それに加えRFナイフは特徴として切れ味が非常に良く、例えば皮膚まで悪性腫瘍が浸潤している場合でも、皮膚も同時に切除し、形成をすることもできるため当院では欠かせない手術機器である。
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使用電極:
針電極 A8D
シャフトの長さ:20mm
電極外径:0.2mm
出力モードと出力:CUT:40、BLEND:40
鼻腔形成術
症例解説と治療の流れ
鼻鏡形成にも瘢痕症候群にならないように注意が必要であり、それにもRFナイフは非常に有効である。従来はRFナイフで鼻鏡をクサビ状に切除するか、パンチバイオプシーで形成していたが、最近は同じくRFナイフを用いて内側の余剰組織を切開離断することで形成している。従来の方法では手術後入院時には問題なくコントロールされている形成部位も、ご家族の元に帰ると、痒みや痛みのためか縫合糸が切れるなどの合併症が起こり、イメージと違う形成になることもあった。その後パンチバイオプシーで左右対称に組織量を抜いてきれいに仕上がっていたのでそれでも良好ではあったが、内側の離断の場合、形の自由度も増すため術者の意図通りに仕上がりご家族のその後の管理も負担が少なく、形成も綺麗に終えることができ、これを多用するようになった。コツとしては、左右の切除ラインを均等にして、さらに奥の組織が盛り上がっている部位までをしっかりと切除することが重要である。
術後は抗生剤とキシロカインを混ぜた軟膏を塗って、終了である。術後管理は感染と疼痛の管理をすればきれいな形に仕上げることは十分可能である。研究でも鼻腔抵抗をほんの少しでも解除できれば効果があると言われている。
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使用電極:
針電極 A8D
シャフトの長さ:20mm
電極外径:0.2mm
出力モードと出力:BLEND:40
軟口蓋過長症
症例解説と治療の流れ
重度の軟口蓋過長症の症例であり、軟口蓋の下垂により麻酔時でも時々気管の奥が見える程度の状況であった。当院での軟口蓋の切るレベルは口蓋粘膜の色が黒とピンクの境界部分と扁桃腺の内側の隠れている部分を半円につなげている。手術はまず喉奥から組織をバブコックで挟んで引っ張り出し、軟口蓋中央部をRFナイフで約30%の深さまで切開し、その後左右の扁桃尾側部分までを切開する。ラインを作ったのちにそれに沿ってバイポーラシザースで切断した。その後は口蓋粘膜を連続縫合する。当院では今まで再手術が必要になることはほとんどない。
今まではRFナイフ以外にも電気メス、半導体レーザー、超音波メス等すべて試したが、最も侵襲が少ないのはRFナイフであった。以前は超音波メスをメインで使用していたが今はRFナイフをメインで使用している。ただし、血管が太い所は出血してしまい、そこがRFナイフのデメリットでもある。出血した場合は、バイポーラで止血操作をする。
今回はエルマン社で新しく発売予定のバイポーラシザーズを使用してみた。バイポーラシザーズは組織が蛋白変性したのを確認してから切り進めるためほとんど出血することなく切除することが可能であった。バイポーラシザーズの使用上の注意としては、通電部が太いため周囲の組織に接触性の熱傷を与えてしまう。それを防ぐために軟口蓋の下は濡れたガーゼでカバーをして出来るだけ通電部に触れないようにしている。縫合のコツは真ん中をまず縫って、右利きなら右から、左利きなら左から縫い進める。真ん中を先に縫うのが左右バランスよく手術をするコツである。通常、術後すぐから呼吸はスムーズでいびきを制限できている。
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エルマン モノポーラとバイポーラシザーズは軟口蓋過長症に有用(※画像は試作段階のものです。)
使用電極:
バイポーラシザーズ BS-01
刃先の長径:40mm
刃先の短径:3mm
出力モードと出力値:BIPOLAR:10
犬の皮膚の肥満細胞腫
症例解説と治療の流れ
当院では肥満細胞腫と診断した時点で、まず手術日を7~14日後に設定して、それまでの間にステロイドや分子標的薬を使用するプレアジュバンド療法で腫瘍を小さくすることから始める。本症例の肥満細胞腫は小さく平らになっているが、切開前の診察時にマーキングを実施しており、それに合わせたマージンを短軸2cm長軸3~3.5cmとし最終的に縫合しやすい形にする。切開方向はランゲルの間隙やランゲル割線に沿うのが理想と言える。メス先は通電部が短い針電極(A8D)で、これは通電部の長さを調整できるので短くして使う。短くすることで奥の意図しない箇所まで切開するリスクが少なくなる。ほとんど出血することなく思い通りの形に切開できるのがRFナイフの利点である。今回はBLENDモードの出力50で表皮、真皮、皮下組織の途中までを切開した。BLENDモードは、あまり出血させたくないときに使用するモードである。さらにコアグレーションの特性があるのでCUTモードより熱変性はあるが、それで縫合できないということはなく、そのまま縫合し、縫合不全などの合併症になることはない。今回は皮下組織以下を新しいデバイスであるバイポーラシザーズを使用した。腫瘍外科での理想的な切開・切除はパンチバイオプシーで抜いたような形である。その理想に近づけるために皮膚切開ラインから垂直に切り下げるのが重要である。また時々の出血にはバイポーラを使用している。今回モノポーラ電気メスで切開する部位をバイポーラシザースを使用した。その使用法としては筋層まで一気に切るのではなく、まずは筋膜直上までを切る。層に対してまっすぐ切れるのが特徴で、コツとしては早く切るのではなく、挟みながら組織が蛋白変性していくのを確かめながら切り進める。その後筋膜と一緒に切開・切除していく。縫合は筋層を縫合して、皮膚・皮下組織を剥離し、ドレーンを入れ皮下組織を縫合および皮膚縫合をする。皮膚断端の形成することなくそのまま縫合できるのはRFナイフの利点である。
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底部筋膜を切除し、筋肉を縫合、皮下組織・皮膚を縫合(※画像は試作段階のものです。)
使用電極:
針電極 A8D
シャフト:20mm
電極外径:0.2mm
出力モードと出力値:BLEND:50
バイポーラシザーズ BS-01
刃先の長径:40mm
刃先の短径:3mm
出力モードと出力値:BIPOLAR:10
乳腺腫瘍
症例解説と治療の流れ
乳腺腫瘍切除術では基本的には通常のコールドメスを使用するが、最近では乳腺全切除の場合の浅胸筋、深胸筋など筋肉量が多い部分をメッツエン型タイプのバイポーラシザーズを使う場合もある。使用の主観は術者のイメージ通りの切除ラインで切開することができ、出血も抑えられる点で有用であると感じた。腫瘍外科の場合はシビアに筋膜から1mmでも0.1mmでもより多くの組織を切除したいと思っているので、このイメージからすると剥離という意味ではコールドメスが一番であり、筋膜直上の組織も含めて少しでも多く取りたいときはコールドメスが適しているが、出来るだけ出血を抑えつつより素早く切除したいときなどは電気メスやメッツエン型バイポーラシザースタイプが使いやすい。
このようにその目的に応じて手術機器を選択するのも良い術者、良い手術をするためには必要であり、その中でもRFナイフのバイポーラシザースは出血量を抑えつつ切除ラインを理想に近ずけれること、それが素早く出来ることなどメリットは大きく、最近では難易度の高い他の手術でも使用し、その使用感も結果も良好に感じている。


(※画像は試作段階のものです。)
使用電極:
バイポーラシザーズ BS-01
刃先の長径:40mm
刃先の短径:3mm
出力モードと出力値:BIPOLAR:10
発行元
日本RF手術研究会※ ellman-Japan 広報チームからのお願い ※

