【皮膚科】Case report B 皮膚科症例紹介

褥瘡治療でのサージトロンの使用例

中川 浩一先生(済生会富田林病院 皮膚科)
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デブリードマン(壊死組織の除去)

デブリードマンとは、初期の褥瘡に見られる黒色壊死組織や、黄色期に見られる不良肉芽を何らかの方法で取り除く手技です。褥瘡治療をするためにはまず外用薬が効力を発揮できる状態、もしくは手術にできる状態に持ち込みます。デブリードマンのタイミングは、黒色期では、境界が不明瞭のうちは触らず、固まって壊死の領域が決まってからが良いです。その後、壊死組織を削り取ります。
デブリードマンの方法は3つに分けられます。外科的方法はメスやはさみ、及びサージトロンのような手術機械を用いる方法です。化学的な方法は、酵素の入った軟膏などで融解除去する方法です。保存的な方法は我々が補助的に生食ガーゼなどで擦過し徐々に行います。外科的なデブリードマンというのは、スピードは早いが、少し難しく、思いのほか出血するなど危険があります。化学的方法・保存的方法は効果が弱く時間がかかるが、比較的安全です。私はいつも外科的な方法でデブリードマンを行なっています。
外科的
化学的
保存的
スピード
速い
中間
遅い
テクニック
容易
中間
安全性
危険
中間
安全
今回はサージトロンによるデブリードマンの方法(外科的方法)を紹介します。黒色期で壊死組織がついている褥瘡をサージトロンで取り除きます。ループ電極を使用し削っていきます。サージトロンを使用するとほとんど出血が起こらないので安心して行えます。
壊死組織ではほとんど出血はありませんが、その下には正常の組織があるので、一気に削ると大出血の原因ともなります。
デブリードマン(壊死組織の除去) 図②を見ていただければわかるかと思いますが、黒色化した壊死組織がまだ残っていますが、私はこの状態で終了し、翌日に残りを行います。もちろん全部取ってしまう先生もいらっしゃると思いますが、私は一度に治療して、術後に大量に出血すると良くないので図②の黄色点線部程の箇所のみを一度に行います。その後、生食で洗浄し、抗菌力のある軟膏(ヨウド製剤など)を塗布します。褥瘡治療は気長に行うことが大切です。

褥瘡のポケット

ポケットというのは褥瘡の辺縁からの皮下トンネルのようなものです。例えば図③の点線部をポケットと呼びますが、ポケットの原因としては皮膚のずれや感染などが考えられ、突然発見されることが多いです。
褥瘡のポケット ポケットが形成されると、ポケットの奥に不良肉芽や感染病巣があり、褥創治療の妨げになります。このポケットをサージトロンで切開します。ポケット内には膿(うみ)が溜まっていることが多いので、これを生理食塩水などで洗浄して洗います。

症例

図④の点線部にポケットがあり、まず表層を切開モードで、優しく切開しています。その下の層は、混合モードで行い、さらに深い組織は止血モードで組織を切開します。最後に筋肉が死んだ壊死物質が出てきました。壊死した筋肉は非常に硬く、鋏で切り取りました。壁からの出血はモスキートで止めます。細かい出血はサージトロンのバイポーラで止血をします。皮弁に糸を掛けて、観音開きにしました。このあと切開部分を、十分洗浄して手術を終えました。
図⑥は手術後 5 日目ですが、きれいな肉芽がみられます。その後、創部の洗浄と外用処置を毎日繰り返し、約4ヶ月で完治しました。(図⑦参照)
症例(デブリードマン)

まとめ

褥瘡の治療は根気のいるものです。一生懸命外用治療を行っていても、徐々に壊死組織が生じたり(最初の段階で黒色の壊死物質が生じることもある)、突然ポケットが発見されることがあります。このような治療過程において、サージトロンは非常に有用な武器になります。
まず壊死組織の除去をサージトロンで行うと出血量が少なくて患者さんの負担を減らすことになります。また、ポケットはその奥に感染物質が堆積したりすることがしばしばありますので、これを切開することも重要です。
その際にもサージトロンは活躍します。このようにして褥瘡が良好な肉芽で覆われるとあとは、外用治療や再建手術で褥瘡の治癒が望める様になります。なお、このような前処置を Wound bed preparationと呼びます。
中川 浩一先生
【筆者略歴】
1981年 大阪市立大学医学部卒業同年、大阪市立大学医学部臨床研修医となる。研究医、大阪市立大学助手、講師を経て
2005年 恩賜財団大阪府済生会富田林病院、皮膚科部長に着任する。

【所属学会ならびに役職】
日本皮膚科学会(代議員)
日本皮膚外科学会(副会長・理事・雑誌編集委員)
日本皮膚悪性腫瘍学会、日本皮膚病理組織学会
日本皮膚科学会専門医 日本皮膚科学会
皮膚悪性腫瘍指導専門医
 
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